『殺人ホテル』(原題:Cadaver)
NETFLIXオリジナルの新作『殺人ホテル』
何と言っても目立つのは直球な邦題。原題『Cadaver』も「死体」を意味する言葉なので直球。
タイトルで内容がほぼ分かってしまうのが難点だが、タイトルから多くの人は恐らくイーライ・ロス監督の『ホステル』を思い浮かべたのではないだろうか?
私も『ホステル』系スプラッターかと思い鑑賞したところ、『殺人ホテル』はスプラッター要素はほぼ無く、舞台設定がややトリッキーな映画だった。
まず、舞台は核戦争後の荒廃した世界で、人々は日々生きるのが精一杯といったような状況にある。
そんな世界で生きる3人の家族がホテルのディナーショーに参加することから始まるこの物語、あからさまに怪しい招待に対して「生きていても楽しいことはないから」「失うものはないから」といったやや後ろ向きな動機付けによって、参加を決定するのが独特で面白い導入。
そこからはタイトル、あらすじの通りの展開になるが、ここで本作特有の仕掛けとして、ホテルの従業員は芝居を行っており、ホテル内で起こるあらゆることは演出によるものだと、支配人から説明がなされる。
招かれた参加者からしたら、目の前で殺人が起きても「演劇」の一環だと認識するため、自分の身に危険が及ぶまで抵抗することがないといった仕組みによって『殺人ホテル』は運営されており、目の前で起きていることが虚構なのか、真実なのか分からない状態を生み出せる非常に面白い設定だが、このギミックが劇中あまり活かされていなかったのが少し残念なところ。
舞台設定が『スリープ・ノー・モア』と全く同じ
本作を鑑賞する上で、知っておいた方が良いものとしてミュージカル:SLEEP NO MORE(スリープ・ノー・モア)がある。
『スリープ・ノー・モア』はニューヨークで上演されている体験型のミュージカルで、シェークスピアの『マクベス』をベースにした物語に、参加者(観客)は全員「アノニマス(見えざる者)」として仮面をかぶり参加し、『マクベス』の世界観をイメージした約100の部屋をゲストは自由に歩き回ることができる。
広い館内の中で同時進行で物語が進み、自分の進む道によってストーリーが決まるといった特徴的なミュージカルで、リピーター続出の大人気作品。
『殺人ホテル』におけるホテル内での状況と全く同じ状況であり、『スリープ・ノー・モア』からインスパイアされたことが見て取れる。
『殺人ホテル』で何を描きたかったのか、どういう映画を制作したかったのかが『スリープ・ノー・モア』の存在からひしひしと伝わってくるが、それ故にもっとこの特殊なギミックを複雑に使っても良かったのでは…とも思わざるを得ない。
fallout的な荒廃した世界における倫理観や、『スリープ・ノー・モア』と同じ状況を利用し犯行を組み立てるといった描きたいテーマがハッキリしており、全体的に分かりやすい構成になっているため、難解な箇所はほぼなく気軽に楽しめる本作は、ノルウェーの新進気鋭の監督、ヤーラン・ヘルダルによるもので、NETFLIXオリジナルとしては初のノルウェー製長編映画でもある。
一風変わった設定や雰囲気を味わいたい方にはオススメの1本。
作品概要
作品名『殺人ホテル』(原題:Cadaver)
監督:ヤーラン・ヘルダル
キャスト:ギッテ・ヴィット | トマス・グリスタッド | ソービョルン・ハール | トゥーヴァ・オリヴィア・レーマン
上映時間:86分
製作国:ノルウェー(2020年)
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