『イップ・マン』シリーズ全作見所解説!鉄拳や猪木アリとの関連も!【詠春拳】

最新作『イップ・マン 完結』が日本でも劇場公開され、主演「ドニー・イェン」の代表作となったシリーズが幕を閉じる…

© Mandarin Motion Pictures Limited.

2008年から続いた、全4作品の傑作カンフー映画シリーズ『イップ・マン』を振り返りながら見所を紹介するので、ぜひ劇場でその物語の終わりを見届けて欲しい…!

『イップ・マン』シリーズ概要

イップ・マン』シリーズは実在の武術家・葉問(イップ・マン)を主人公とし、彼の半生を描いたカンフー映画である。
このイップ・マン、武道家・アクションスターとして名を馳せたブルース・リーの師であり、詠春拳(えいしゅんけん)葉問派の宗師として知られている。
2008年に制作されたウィルソン・イップ監督作、『イップ・マン 序章』(原題: 葉問、英題: Ip Man)のヒットを受けてイップ・マンを描いた作品が多数制作され、ハーマン・ヤオ監督『イップ・マン 誕生』、イップ・マン 最終章等が存在するが、ウィルソン・イップ監督作のシリーズとは繋がりはないためご注意を。
繋がりのあるシリーズ作品は以下の通りなので、制作順での鑑賞をお勧めする。

  • イップ・マン 序章(2008)
  • イップ・マン 葉問(2010)
  • イップ・マン 継承(2015)
  • イップ・マン 完結(2019)

イップ・マン外伝 マスターZ(2018)は『継承』に登場するイップ・マンのライバル的存在、張天志(チョン・ティンチ)のスピンオフ作品

これらイップ・マンシリーズ共通の構成要素として①差別・抑圧に対する抵抗 ②中国武術VS中国武術 ③異種格闘技対決があり、①を軸にしながら③を描く、その中に②が組み込まれるという流れが共通のフォーマットになっている。
このフォーマットを利用し、不器用ながら誠実で、情に厚いイップ・マン師匠の生き様を描いたのが『イップ・マン』シリーズだ!

詠春拳とは

イップ・マンシリーズにおいて重要な要素として、主人公イップ・マンが使用する「詠春拳」という拳法がある。
格闘技やカンフー映画等に精通していないと耳慣れない拳法ではあるが、手数の多い手技を特徴とした中国武術で、ルーツとして女性拳法家が創始したこともあり、現代では護身術としてポピュラーになった拳法である。
『イップ・マン』劇中でも使用される「チェーンパンチ」と呼ばれる独特な連打が印象的だ。

創作の分野では、『鉄拳7』に登場した「あまりにも強い新キャラ」として昨年末話題になった「リロイ・スミス」が詠春拳の使い手であり、その騒動のせいもありゲーマーの間でも割と浸透した拳法である。

『イップ・マン 序章』(原題: 葉問、英題: Ip Man)

1930年代、武術が盛んで、多くの道場が開かれていた中国広東省仏山市。仏山に住むイップ・マンは詠春拳の達人であり、仏山でも最強と呼ばれていた。
しかし、日中戦争により仏山は日本軍の占領下となり、極貧生活を強いられるイップ・マン…
そんな中、知人(芋くれるめっちゃいいやつ)が日本軍との武術試合で殺されたことを知り怒りに燃えるイップ・マンが日本軍の兵士と争うこととなり、最終的に日本軍の将校である、空手の達人三浦(池内博之)と一騎打ちするのが1作目のあらすじである。
三浦との異種格闘対決は、豪快に攻める三浦の空手と、華麗な手捌きと連打を主体に戦うイップ・マンの詠春拳の対比が面白く見応えのあるアクションを堪能できるが、本作の見所は何と言っても日本軍兵士10人対イップ・マンの対決である。

© 2008 Mandarin Films Limited.

知人を殺害された怒りに燃えるイップ・マンが10人相手に無双するこのシーン。それまで穏やかで、戦いかたにも華麗さがあったイップ・マンとは一転して非情に人体を破壊していく恐ろしく強い詠春拳が描かれる。

© 2008 Mandarin Films Limited.

後のシリーズ作品と比べても、この戦闘では特に強いイップ・マンの内に秘める怒りが表れており、詠春拳という拳法の恐ろしさ、イップ師匠の強さを味わうことのできる印象的なシーンである。

イップ・マン 葉問』(原題:葉問2、英題:Ip Man 2 )

1949年、日本軍から逃れるため家族を連れ香港に移住したイップ・マンは、詠春拳の道場を開く。しかし、香港に存在する様々な門派の武館の元締めである洪拳の達人ホン(サモ・ハン・キンポー)との派閥争いに巻き込まれつつ、中国武術を侮辱するイギリス人ボクサーが現れ、またもや異種格闘戦へと発展するといった内容の2作目。
1作目の空手以上に中国武術とは毛色の異なる「ボクシング」との対決もそれぞれの戦いかたの違いが表れていて面白いアクションが堪能できるが、本作の見所は香港の武術を取り仕切る、洪拳の達人ホン(サモ・ハン・キンポー)との対決である。

© 2010 Mandarin Films Limited.

『燃えよドラゴン』の冒頭でブルース・リーと戦ったサモ・ハン・キンポーが、40年弱経った後にブルース・リーの師匠であるイップ・マンと戦うという構造も熱いが、「不安定な円卓上での戦い」詠春拳のスタイルを表現する上で重要な装置となっている。

© 2010 Mandarin Films Limited.

詠春拳イップ・マンと対するホンが用いる洪拳(洪家拳)、この二つの拳法は共に中国武術の中で南派武術に分類される。
蹴りや跳躍を特徴とする(例外あり)北派武術とは異なり、南派武術は手や腕を主体に行う。真偽は定かではないものの、船の上のような狭い場所・揺れる場所で戦う事を想定し発展したとされるルーツを持ち、技術体系としても共通点の多い詠春拳洪拳が戦うフィールドとして円卓場はおあつらえ向きなのである。
高速かつ高純度な南派武術同士の対決が本作の見所だ!

イップ・マン 継承』(原題:葉問3、英題:Ip Man 3 )

1959年香港、前作での出来事を経て、詠春拳は香港武術界から認められ、街の人達からも葉師匠として慕われる存在となっているイップ・マン。
そんなイップ師匠の次男が通う小学校の土地開発を画策する、アメリカからやってきたフランク(マイク・タイソン)率いる地上げ屋との戦いを描きながら、シリーズ初の同門対決(詠春拳VS詠春拳)も描いた3作目。
イップ・マン以外の詠春拳の使い手、張天志(マックス・チャン)との同門対決や、エレベーター内、妻を守りながら戦うムエタイの使い手との対決、ブルース・リーにダンスを習うイップ師匠…と見所の多い3作目だが、何と言っても目玉はフランク(マイク・タイソン)との戦いだ。

© 2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd.

2作目とは異なり、ルールのある試合形式ではない本作の対ボクシング、しかも相手はマイク・タイソン(めちゃくちゃ怖い)、苦戦するイップ師匠が繰り出したこの構え。

© 2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd.

イップ・マンシリーズの目玉でもある「異種格闘対決」といえば、アントニオ猪木が行った「格闘技世界一決定戦」が思い出される。
猪木が行った一連の対決の中でも特に話題となったモハメッド・アリ戦にて、ルール上ほとんどのプロレス技やスタンド状態での蹴りを禁じられた猪木が取った苦肉の策である「マットの上に仰向けに寝転んだ状態のまま前蹴りやローキックを繰り出す」通称「猪木アリ」状態。

© 板垣恵介(秋田書店)/バキ製作委員会

『バキ』でもネタにされていたこの状態だが、実際に総合格闘技でこの状態で膠着することもあり、実用性のある(打開策は存在する)構えなのである。
イップ・マンがフランク戦で見せた構えがこの状態に似ているが、実際ドニー・イェンが猪木の構えを参考にしたと語っている。
実際の詠春拳には存在しない構えで、困難な状況を打開しようとするこのシーン。史実とは異なる物語で、ウィルソン・イップ監督とドニー・イェン自身を投影した「イップ・マン」を描く本シリーズそのものを表すような名シーンだ。
余談だが、この構えは詠春拳のものではないものの鉄拳7のリロイ・スミスのモーションに非常に似ているものが採用されており、ドニー・イェンが演じたイップ・マンの影響力の大きさを実感できる。

イップ・マン 完結』(原題:葉問4:完結篇、英題:Ip Man 4: The Finale )

現在、日本国内にて絶賛公開中の最新にして最終作。

1964年、愛弟子ブルース・リーの招待を受けサンフランシスコに渡ったイップ師匠。
息子の留学先探しに難航する中、現地チャイナタウンと米海軍との抗争に巻き込まれるのが本作のあらすじだ。
前3作同様、中国武術VS中国武術と異種格闘技対決を存分に楽しめる本作。
アメリカにおける中国人への差別に苦しみながらも、チャイナタウンに中華総会を設立し会長を務める、八極拳の達人ワン・ゾンホア(ウー・ユエ)。
中華総会の掟を破って外国人達に武術を教えるブルース・リーをめぐり、師匠であるイップ・マンと対立する。
中華総会と一度は対立したが、アジア人が差別され人権が蹂躙される様子を目の当たりにしたイップ師匠は、空手をベースにした近接格闘術の使い手、白人至上主義者であるバートン・ゲッデズ一等軍曹(スコット・アドキンス)との最終決戦に挑むのであった…!

© 2019 Mandarin Motion Pictures Limited.

本作の見所は、これまでのシリーズではゲスト程度の扱いだったブルース・リーの本格登場だ。

© 2019 Mandarin Motion Pictures Limited.

独特なステップ、ワンインチパンチ…と、ブルース・リーが創始したジークンドーのアクションに加え、ヌンチャクを用いたアクションも披露し、その「ブルース・リーっぽさ」に驚くこと間違いなしのシーンに仕上がっている。
ブルース・リーを演じたのはチャン・クォックワン、連続ドラマ『ブルース・リー伝説』でもブルース・リーを演じている、自他共に認めるブルース・リー俳優である。
『ドラゴン怒りの鉄拳』や『燃えよドラゴン』を彷彿とさせるアクションシーンにはブルース・リーファンもきっと満足できるだろう。

10年以上続いたシリーズに幕を下ろす本作、「不正に立ち向かう為に武術を学んだ」イップ・マンが、虐げられ、抑圧されてきた人々のために戦ってきた半生に思いを馳せ、彼の物語を見届けよう。
キャラクター「イップ・マン」の完結と同時に、主演ドニー・イェンや監督のウィルソン・イップ他制作に携わったスタッフの総決算をぜひ劇場で目に焼き付けてほしい。

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