映画…………これを趣味と言い切るのは少し勇気が要る。自己紹介の場で下手に「映画が趣味です!」なんて言うと、その場に居た映画フリークに「好きな俳優は?」「好きな監督は?」「スパイダーマンはどのバージョンが好き?」「悪魔のいけにえではどのエディション?」などと聞かれるハメになる。そこで、「好きな俳優は〇〇で、監督は××、スパイダーマンは△△バージョンだけど演出と音楽に関しては□□バージョンかな~」と言えるなら良いのだが、私はそうではない。俳優ならともかく監督の名前なんてほとんど知らないし、スパイダーマンが逆さ吊りになってヒロインとキスするのはどのバージョンだったか……という感じだ。
だいたい、映画に登場するアクターの名前どころか登場キャラクターとしての名前もろくに覚えていないことが多い。映画を見終わった後には「あの強い黒人のひと」「マジ強い兄貴」なんて言葉ばかり言ってしまう。
だが、それでも映画は良いモノだ。最高の娯楽のひとつだ。気合を入れて劇場で見ても良いし、リラックスしながら家で見ても良い。特にアクション映画は最高だ。スクリーンで登場人物が格闘し、銃を撃ち、飛んで跳ねて最後には爆発し、悪い奴が死ぬ。これぞエンターテイメントだ。
だが、最高の娯楽である映画にも弱点はある。それは…………長いということだ。そんなことないって? 二時間だぞ!? 二時間! 二時間もスクリーンの前でじっとしているなんて禅僧でもないとできないんじゃないか? 5分のカップラーメンすらやや長いと思っている人間にとって、2時間もじっとスクリーンを見つめろというのは拷問に近い。
一説では人間の集中力は最大45分しか持たないという。つまり映画をずっと集中して鑑賞するというのはよっぽどの事が無い限り不可能ということだ。そう、ここまで読んだ読者諸氏は気づいただろうが、今日は映画の話をする。映画の話をするが……意識の低い映画の話だ。映画側の意識が低いのではない、見る側の意識が低い、映画の話だ。今日はそんな意識の低い私がオススメの映画を二本紹介する。
サーホー(2019)
先ほど、二時間は長いと書いたのに申し訳ないが、最初に紹介する映画「サーホー」はなんと約3時間もの上映時間がある。三時間! 聞いただけで気が遠くなり、三時間もじっとしてなきゃいけないのかと想像するだけで恐怖に縮み震えあがっただろう。そうだ、今作は170分もの間、主人公である「サーホー」が(映画のタイトルが主人公の名前というのもオススメポイントだ。混乱しなくていい)怒涛のアクションで暴れまわる。
さらに、サーホーは脚本が少し複雑だ。基本的にはサーホーと敵が戦うアクション映画なのだが、裏切りや二重スパイ、潜入工作が横行し敵味方が入れ替わる。ふと気を抜くと、「今サーホーは誰と戦っているんだ?」という疑問を抱く羽目になる。ここまで聞いて、「そんな難しくて長い映画なんてぼくには絶対無理だよ! YouTubeで外国人の面白ビデオクリップを見るため家に帰る!」と及び腰になるのも無理はない。
だが、その懸念を私が解決しよう。このアドバイスがあれば、あなたはきっと「サーホー」を楽しむことができる。
そのアドバイスとは…………「諦める」だ。
諦める。そう、諦めるだ。3時間が長い? 途中で30分くらい寝てしまえば良い。お話が難しい? お話を理解するのは諦めよう。誰が敵かって? サーホーがその時戦っている相手が敵だ。このアドバイスが私の答えだ。つまるところこの映画は主人公「サーホー」のアクションと活躍を楽しむ映画なので、難しいことは全て忘れて「サーホーかっこいい!」と思えれば良いのだ。私はそれでも十分楽しめた。劇場に持ち込んだキャラメルポップコーンが血糖値を爆裂に上昇させたため、私は映画が始まってだいたい90分くらいのところで眠ってしまったが、スクリーンから轟く爆発音で思わず飛び起きた。そのときにはサーホーがジェットパックで迫真の空中戦をしていて話の筋はわからなかったが、サーホーが強くてスゴイということは分かったし、最後までとびきりにカッコよかったので私は満足した。
浅い感想……そう思うかもしれないが、それでいいと私は思っている。「この映画のテーマは云々で監督が伝えたかったメッセージはアレで……」なんて全ての観客が思っているわけではないし、私はこの映画を見終わったあとテンションが上がってサーホーが着ているのに似たグレーのシャツを買った。だから私はこの映画のファンだし、次見るときは違うタイミングで寝るかもしれない。
「ジョン・ウィック」シリーズ
次に紹介するのは「ジョン・ウィック」シリーズだ。2014年に最初の「ジョン・ウィック」、2017年に「ジョン・ウィック:チャプター2」、2019年に「ジョン・ウィック:パラベラム」という三作が公開されているこのシリーズは、まだ4作目が公開されてもいないのに5作目を撮る予定であるほど人気がある。この映画のオススメポイントのひとつは話が分かりやすいという点で、本作のあらすじを説明すると次の一行で済む。
ジョン・ウィックがマフィアに喧嘩を売られたので、敵を全員殺す。
本当にこれだけだ。驚くべきところは多少の違いはあるものの今までに公開されてきた三作とも同じこのあらすじだということだ。それほどまでにこの映画はシンプルだ。キアヌ・リーブスが演じる凄腕の殺し屋ジョン・ウィックがあらゆる手段で敵を殺す。殺しに殺す。拳銃でライフルでナイフで素手で屋内で屋外で敵を殺す。初代「ジョン・ウィック」では80人超のマフィアを殺し、「チャプター2」では120人超殺し、「パラベラム」では170も超えるほどの敵を殺している。殺しの映画だ。そもそも主人公のジョンにはあまり台詞が無い。何故なら登場人物がほとんど「ジョン」か「敵」の二種類しか居ないためコミュニケーションが必要ないからだ。
それでこの映画は面白いのか? という問に私は自信をもって「超面白い」と言える。それほどまでにジョンのアクションはクールでスタイリッシュだ。難しい話はどこにもないし、映画を見ていて「ムカつく顔だなー」と思った奴はだいたい敵だしジョンに殺される。それが完全に愉快だ。主人公がカッコイイ! 敵がムカつく! その敵を主人公が華麗に殺す! アクション映画の基本を突き詰めたのがこの映画だ。
小学生みたいな感想……そう言われるかもしれないが、小学生がこの世で一番人生を楽しむのが上手なので何も問題ない。映画を見終わった後には「あのアクションが良かった」「あの敵の殺され方が最高だった」と言えること請け合いだ。スクリーンの中ではシリアスで壮絶な殺し合いが行われているが、壮絶すぎて、ジョンが強すぎてむしろ笑えてくる。だからこの映画は「元気が出る」映画だと言えるし、私もジョンが敵マフィアの親玉の脳天に銃弾を打ち込むシーンを見るとすっきりして元気が出る。
映画は難しいことを考えずとも楽しめる最高の娯楽だ。もちろんあなたに自信があるのなら、しっかりと映画を見てもっと映画を楽しんでもいい(その際にはぜひ私にもその面白さを教えてくれ! できればわかりやすく)。今日はふたつの映画をオススメした。どちらもエンターテイメントの本質を捉えた傑作だ。それでは、私はもう行く。もちろん次の映画を探しにだ。この21世紀でも映画はまだまだ撮られ、私が暇を持て余すこともしばらくは無さそうだ。更に来年はジョン・ウィックの4作目も公開予定と、今から待ち遠しい心持ちを共有して、この文章を終わりにしよう。次は何人殺すのかな。
終
- 本物のバトル俳優たちを集めに集めた最強の肉弾アクション映画!『The Last Kumite』
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