2020年7月31日より公開開始した本作について、思いの外ヤバい映画だったので見所を紹介する。
『人体のサバイバル!/がんばれいわ!!ロボコン』
『がんばれいわ!!ロボコン ウララ〜!恋する汁なしタンタンメン!!の巻』『スプリンパン まえへすすもう!』『人体のサバイバル!』の3本立てで公開された本作。
公開前から主要キャラクターに「汁なしタンタンメン(CV:鈴村健一)」が存在することで話題になった令和版ロボコンは監督:石田秀範、脚本:浦沢義雄と平成版ロボコン『燃えろ!!ロボコン』と同様のタッグで制作された。
『人体のサバイバル』は日本を含むアジア圏を中心に人気の学習漫画を原作としたアニメで、昨年公開された動画でもフィーチャーされていたシリーズ第17弾『人体編』をブラッシュアップしたアニメーション映画だ。
タイトルには含まれていないものの、上2作の間に上映される『スプリンパン まえへすすもう!』はCGCGスタジオ制作のミュージカルアニメで非常に滑らかで美しい3Dモデルのモーションとよく分からない世界観で5分間と短い時間ながら強烈な印象を与える作品だ。
中華料理が喋る、乳を吸う。ヒロインが豹変。怪作「ロボコン」
タイトルにもある通り、「汁なしタンタンメン」が物語の核となるロボコン。
ロボコンの失態によって偶然生まれた汁なしタンタンメンは自我を持ち、恋したロビンのために世界征服しようとする。しかし、そうした汁なしタンタンメンの姿勢に反発する中華料理屋の他の料理達と争うことになり…
といった常軌を逸した物語が展開され、汁なしタンタンメン以外の料理も自我を持ち自らの意思で動き回る様子が描写される。
2012年に公開され世界中で話題になった『デッド寿司』を彷彿とさせるような「食べ物が自我を持つ」描写に面食らってしまった。
食べ物が動き回ることに申し訳程度の理由付けもなく非常に潔さを感じる本作だが、脚本の浦沢義雄氏はシュールな作風を得意とし、そうした食べ物が自我を持つ内容を作品に取り入れたのは本作が初めてではない。
『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』や『テツワン探偵ロボタック』など懐かしの特撮作品でも同様のテイストが発揮されており、食べ物のみならず無生物をキャラクターとして動かすことを好む浦沢脚本が石田秀範監督の演出によって頭がクラクラするような映像に仕上げられたのが本作、令和版ロボコンなのである。
自我を持ったばかりでまだ赤ん坊の汁なしタンタンメン(CV:鈴村健一)が、自分を作ったロボコンを父と呼び乳を吸おうとするシーンはある種の恐ろしさを感じるような映像体験だった。
そうした、食べ物が普通に自我を持ち行動する独特な世界観に慣れてきたところで、追い討ちをかけるように我々を混乱させるのがヒロインのロビンちゃん(土屋希乃)だ。
非常にかわいいロビンだが、とある理由によって豹変してしまう。
ロビンを演じた土屋希乃さんの「この人NGとか無いのか…」と思ってしまうほどの熱の入った暴走した演技・演出に色々と心配になりつつ、何が起こっているのか分からないまま突入する宇宙でのロボコンVSロビンからラストへの流れは頭の整理が追いつかず圧倒された。
ロビン豹変の理由付けは一応なされるものの、全体的的に「説明」を省いた構成のため想像を超える展開に終始混乱が絶えない一連の映像は、疑問を持たずに見たものをありのままに受け入れる姿勢が求められる。
短い尺、さらにコロナ禍における制作への影響、そうした制約の中で浦沢脚本、石田監督の演出によって濃密に作り上げられた『令和版ロボコン』。ぜひ映画館でジェットコースターに乗ったような不思議で楽しい映画体験をしてほしい。
タイトルには入っていないが名作『スプリンパン まえへすすもう!』
異常な展開が連続するロボコンに続き上映される『スプリンパン まえへすすもう!』
こちらは井上ジェット脚本・監督でCGCGスタジオによって制作されたCGアニメで、主人公スプリンパンの不思議な世界での旅の様子をミュージカル形式で描くといった内容の作品。
2017年から企画があり、井上ジェット氏が自らフランスをはじめ世界のアニメーション関連企業に売り込んでいたプロジェクトである「スプリンパン」。
2018年2月開催の『第1回 VTuberハッカソン』にも「スプリンパン」を用いた作品を発表している。
本作の見所は、キャラクターモデルのモーションの滑らかさ、音楽・振り付け等ミュージカルを構成する要素のレベルの高さが相まって非常に美しい映像になっている点だ。
出演者には劇団四季の出身者がキャスティングされていることもあり、ミュージカルアニメとしてクオリティが高い。
主人公スプリンパンとキャラクターの1人スノミーメイの姿はもっと長い時間観ていたいほど美しい。
5分程度の短い作品で、世界観について細かく語られることがないままハイスピードに駆け抜けていくため、勇者ヨシヒコの仏のような「おかあさん」の登場や全体的に独特なキャラクターに面食らうが、この辺りは尺の都合上仕方ない部分が強いだろう。
井上ジェット監督は自身のnoteにて以下のように本作への思いを綴る。
私がこの作品に込めた思いは、恨みや妬み、いがみ合いや争いのない作品を作りたいということでした。「すごいことをしなければならばい」「悔しい」「見返してやろう」というような感情を煽ることが小さな要素でも息苦しさを生み出していくと思うと、将来的にそれが大衆娯楽であるのかと悩み、そういった要素を極力控えそして「健やかな前向きさを持ったアニメ」にしたいと思ったのです。
https://note.com/jeti/n/n38194d0eae16
ロボコンについても石田監督は以下のように語っている
今は新型コロナウイルスの影響で子供たちが遊び場を奪われて、つらい思いをしています。自分にも甥っ子や姪っ子がいるんですが、この子たちが楽しむ場を提供したいという想いで撮影に臨みました。難しいこと、重いことは一切流してしまって、頭を空っぽにして、とにかく無邪気に楽しめる。遊園地に行ってアトラクションに乗ったときの「わー!」という気持ちを、この映画に込めました。『ロボコン』を見ている間は、楽しい思いをしてくれればそれでオッケーです!
https://news.yahoo.co.jp/articles/ade7556799987c33c2df25d1a9a809a1c159a579?page=2
本作は全体的に独特な味のある作品が連なった形で公開されたため、非常に不思議な映画体験ができるが、根底には制作者の「楽しさ」を伝えようとする意思があり、実際そうした思いを感じることができると思う。
皆さんも、ぜひ劇場でこの3本立てで無邪気に楽しんでみてはいかがだろうか。
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