『愛してるって言っておくね』(原題:If Anything Happens I Love You)
11月20よりNETFLIXにて配信開始された本作、セリフの無いアニメーションで表現され、娘を失った両親の悲痛な思いが、影を利用した独特な表現によって10分強で描かれた、非常に濃密な短編アニメーション作品となっている。
NETFLIX内でのあらすじによって概ねストーリー展開が予想されてしまうが、それでもタイトルになっている「If Anything Happens I Love You」(愛してるって言っておくね)の意図が判明するシーンはあまりにも悲痛で衝撃的なものだったため、トレーラー等はあえてここでは掲載せず、出来る限り予備知識なしで本編を鑑賞していただきたい。
トイストーリー4の共作者であるウィル・マコーマックが監督し、ローラ・ダーンもプロデューサーとして参加している本作。
モチーフになっている事件自体の凄惨さに加え、それに付随する困難にフォーカスした内容からは非常に強いメッセージを感じた。以下ではその内容について触れていく。
本作のテーマ・メッセージについて
ここからは本編を鑑賞済みの方向けに、本作のテーマとそのメッセージについて考えていく。
本作は、学校内で発生した銃乱射事件がモチーフになっているが、そうした状況に際してSNSやメールを利用して生存者や犠牲者が家族等にメッセージを伝えた状況が話題になった、2018年に起きたマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件の状況と類似点が見られる。
劇中歌として挿入されるKing Princessの『1950』も非常に印象的だが、亡くなった少女が聴いていた音楽として『1950』が使われていることからも時期的に2018年の事件がモチーフになっているのではないかと思われる。
これまでも、銃乱射事件をモチーフに制作された映画は存在し、『エレファント』や『ゼロ・デイ』など1999年に起きたコロンバイン高校での事件を下敷きに制作されたものが多く、それらは、犯行の動機や事件の凄惨さをテーマにしているが、『愛してるって言っておくね』がテーマにしているのは被害者遺族の心の傷である。
コロンバイン高校での事件でも多数いたとされるが、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校での事件後、多くのメディアが報道したのが「2次被害者」の多さである。
被害者の遺族のみならず、事件の生存者が「サバイバーズ・ギルト」(事故や事件の生存者が、自分だけが助かったことに罪悪感を持つこと)に悩み、自殺するケースが多く、日本でも話題となった。
事件がきっかけでPTSDに苦しむ方々への長期的なケアや周囲の理解は非常に重要なもので、そうした方々へフォーカスし、悲しみと希望を描いた本作は、これまで銃乱射事件を扱った作品とも異なる意義・使命を果たしていると思われる。
I hope that you’re happy with me in your life.
1950 – King Princess
I hope that you won’t slip away in the night.
I hope that you’re happy with me in your life.
I hope that you won’t slip away.
劇中で使用される『1950』はクィアをテーマにした楽曲として愛されているが、本作鑑賞後は上記の歌詞の一節の印象も変化した。
テーマ・メッセージと、美しくも悲痛なアニメーションが音楽と重なり合い、観たものの心に残る短編アニメーション作品として構成された傑作。
多くの人へ届いて欲しいと願う。