映画『とんかつDJアゲ太郎』
2014年から2017年まで少年ジャンプ+にて連載していたギャグ漫画『とんかつDJアゲ太郎』を原作にした実写映画が本日より公開開始された。
原作1巻をベースに、アゲ太郎のクラブとの出会いからDJとしての初成功を収めるまでを描いた作品となっている。
二宮健監督は2019年公開の『チワワちゃん』でも漫画原作の作品を映像化しており、1話のみの、時代背景も異なる原作を大幅にアレンジして1本の映画として巧みに仕上げていたが、今作でもそうしたアレンジが効いており、それが良い方向にも悪い方向にも作用している印象を受けた。
リアリティを保ちつつコメディを演出
アゲ太郎がDJを志すきっかけとなった「とんかつ屋とDJって同じなのか!!!???」を筆頭に、原作漫画は何でもとんかつとDJを強引に結びつける非常に荒唐無稽な発想が連続し、それが笑いを生む構造になっている。
例)会場で聞いた曲がキャベツの千切りを刻む音のテンポと同じ、ロングミックスはミルフィーユカツでクイックミックスは串カツと同じ構造等
とんかつ屋とDJ、二足の草鞋を履くことになるものの、とんかつの技術がDJの技術向上に繋がり、逆もまた然りという構造によって、相乗効果でグイグイと成長していくアゲ太郎が描かれるのも原作漫画の魅力である。
実写版では、その辺りのギャグ表現・演出がかなりマイルドになっており、リアリティを保ちつつ、コメディとして成立するような表現に止まっていた。
そのため、「とんかつ」要素と「DJ」要素を結びつけるものが薄くなっていたことは否めないが「とんかつ屋の息子がDJを目指す話」としては面白く仕上げており、アゲ太郎初見の方でも楽しめる作品だった。
その分原作ファンには少し物足りなさが残るかもしれない。
荒唐無稽すぎる内容を実写に起こすと「寒い」映像になる場合もあるので、この辺りは1本の映画として仕上げるに当たって必ずしも悪い点ではないと思う。
ただし、『チワワちゃん』でも指摘されていたようなやや冗長なMVのようなシーンが本作でも存在し、そこがオーバーな表現だったため抑え気味のギャグ表現とのギャップを感じ、やや気になるポイントではあった。
キャラクター・構成のアレンジ/キツい共感性羞恥を感じる
本作では、原作1巻での内容をよりドラマティックに描くにあたり、アゲ太郎が初めてDJとして出演した際のミスの描写が著しく強化されており、目を背けたくなるほどの内容となっている…
原作だと、オイリーさんが油裂音をサンプリングした音源を流すことで場を持たせたが、本作ではその流れを大幅にアレンジしており、それに伴いオイリーさんのキャラ付けが大きく変更されている。
原作ではギャグとして許容される存在も、現実に寄せた実写版では明らかな異物として扱われるのも見ていて少々心苦しい。
その分、クライマックスにおけるカタルシスは大きく、油裂音のサンプリングやキャベツの千切りを思わせるビートを用いたアゲ太郎でしか聴けないような1曲『とんかつアンセム』は非常に印象的な楽曲である。
DJ屋敷との掛け合いも盛り上がり、終盤の展開は一つの青春映画として非常にアツい仕上がりだった。
劇中歌について(ややネタバレ注意)
先述の『とんかつアンセム』を初め、オリジナル楽曲『juicy&crispy』等印象的な楽曲もある一方、劇中歌としてマルーン5やベリンダ・カーライルの楽曲が使用されているが、『とんかつアンセム』で最高潮に盛り上がった状態でアゲ太郎が選択した曲が『Heaven Is A Place On Earth』で、「クラブは天国のようだ」と語るアゲ太郎の主張にマッチした楽曲だが、最大の見せ場で流れたのが超有名曲だったため少々肩透かしを食ったような気分になった。
原作・アニメ版では『Rainy Lenny』というオリジナル楽曲が存在し、油裂音と土砂降りの雨音を重ねて繫ぐおしゃれ(?)な演出が存在し、アニメ版放送に当たって実際に楽曲が制作されている。
原作ファンには印象深い楽曲で、アニメ放送当時も好評を博した『Rainy Lenny』
最後『Rainy Lenny』で良くない?
原作ファンでこう思った方は自分以外にもいるのではないだろうか…
まとめ
原作の基本的な展開をなぞりつつも大幅にアレンジを効かした本作。
DJを志した青年と地元の仲間たちの友情・成長を描いた青春映画として非常に楽しめたが、実写映画として再構築するにあたりアレンジされた部分が原作ファンには少し気になるポイントかもしれない。
何かと不運に見舞われた作品だが、こうして公開にまで漕ぎ着けたことを原作からのファンとしてはありがたく思う。
ただDJ KOOは本当に必要だったのだろうか…
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