『南極料理人』堺雅人のホンワカしたドン引きを見て癒やされよう!/マシーナリーとも子映画コラム

 今回はPrimeVideoで『南極料理人』見たぜ! やっぱメシ関係の作品っていいよな。なんでメシの話っておもしろいんだろうな。

 この映画は実際に南極で料理係を勤めた西村淳氏によるエッセイ『面白南極料理人』を原作としている。舞台は南極のなかでもとくに高い、標高3810mに位置するドームふじ基地で、そこはペンギンもアザラシもいない極寒の地だ。平均気温はマイナス50度にまでなり、ウイルスも存在できないので風邪すら引くことのできない極限世界。そこで主人公の西村くんは料理係として、観測隊を癒やすため腕をふるうのだが……。当然、持ち込める食料には限りがある。使える食材もだ。使える主な食材は缶詰や冷凍野菜など。フレッシュな食材などは望むべくもない。
 これはワクワクしてきますね! 限られた食料に封鎖空間に閉じ込められた男たち。こうなったら起こることはただひとつだ。メシを奪い合うための醜い争いだ。SFとかでもよくある展開だな。きっとこれから、外界では取るに足らないような食事を巡って凄惨な争い、派閥争い、殴り合い、死体をアザラシに喰わせるなどの南極ならではの展開が見られるのだろう……。

(C)2009『南極料理人』製作委員会 (C)2001、2006 西村淳/新潮社
今回はPrimeVideoで鑑賞。さすが南極は地平線がキレイだなぁ~~と思ってたらロケ地は北海道の網走でした

 が、実際はそんなことはないんだな。このお話はめちゃめちゃノンビリした話で軽い諍いはあるっちゃあるが、見ていて「うわ!!!! マイルド!!!!」と驚いてしまうくらい平和だ。というか意図的にストレスある展開がすっごく抑えられてる感じがあるな。ケンカが起こるシーンとかもあるにはあるけど、ムカついて怒鳴ったりするシーンもかなりコメディ色を強めていて嫌だな~~ってならない。むしろなんでもないシーンの生瀬勝久のボヤキのほうがダメージ負うくらい平和な作品だ。
 食料をめぐる問題も、まあメシの話なのであるっちゃある。例えば、夜食を求める隊員たちがこっそり食べ続けることによって起こったインスタントラーメンの枯渇。例えばストレスからか、バターにドハマりして隠れてまるかじりし始めてしまう隊員。だがそんな事態に対し、堺雅人演じる主人公の西村くんが返す反応は「ドン引き」だけなのだ。怒ったり殴りかかったりしない。すごい。これはすごい映画だぞ!

(C)2009『南極料理人』製作委員会 (C)2001、2006 西村淳/新潮社
突然バターをまるかじりし始める隊員。このシーンも「うわ!!! 狂った!!!」みたいなことはなくて「あー ストレス溜まって異常に脂物食い始めるやつとかいるよな……」くらいにサラッと描写されている

 この映画の堺雅人はキレない。なんか『リーガル・ハイ』とか『半沢直樹』のイメージあるから堺雅人の顔を見るとクソデカボイスでなんか主張しだす感じを想像してしまうが、『南極料理人』の堺雅人が繰り出す感情はひたすら「ドン引き」なんだよな。先述のバター食い男なんてさ、南極という極限環境で料理には欠かせない貴重なバターをモリモリ食べられちゃったのにかける言葉が「糖尿病になるよ……?」だもんな。健康を気遣ってあげるのかよ! クライマックス近くでは堺演じる西村くんも、とある事件により大きなストレスを抱えてしまうのだがその結果起こす行動が「スネてフテ寝する」なんだからかわいらしいったら無い。それに応じての他隊員の行動も「ドアの前でか細く謝る」とか「代わりに料理を作る」とかであまりにもいじらしい。なんだこの映画!?

 また、冒頭で「南極での食材は非常に乏しい」と言っておきながら劇中ではデカい肉、人数分ある伊勢海老、まったくありがたがれないほど豊富にあるカニなどかなり豪華。新鮮な食材は無ぇって言ってたじゃん! そのため、例えば『神々の山嶺』のような食事シーンの悲壮感はまったくなく、常に美味しそうなものが出てきてほのぼのさせられる。それでいてハレとケを食事で演出したりとかもあったりしてこれがさり気なく「良いな~~!」と思わせてくれる。でも逆に言えばその程度であって、「あの食事が事態を解決するキーパーソンに!」みたいのが全然ないんだよな。

(C)2009『南極料理人』製作委員会 (C)2001、2006 西村淳/新潮社
南極ならではのメシの苦労! どころか極寒の大地にいちごシロップをかけて食い始めるユルさ。しかもこのあと野球をはじめる
(C)2009『南極料理人』製作委員会 (C)2001、2006 西村淳/新潮社
肉を炎上させて大はしゃぎする西村くんとドクター。ドクター、やたらいいキャラしてるし見覚えあるけど誰だっけ? 演じてるのは……豊原功補? あ! 『時効警察』の十文字さんか!

 そう、このお話はいい意味でお話に起伏がなく、料理に物語を負わせない。極端な起承転結も、三幕構成もなく、ただ南極での日常が淡々と過ぎていく。もちろん、物語にはうっすらとした縦軸があるにはあって、南極での450日あまりの描写のなかで各々の抱えてる問題が進展したり、解決したりを見せることはある。でもそれは、いわゆる映画的なものはあんまりなく、割となんとなく展開され、なんとなく解決していく。でもそれが心地良いんだよな……。いい意味でぬるま湯っぽくて見心地がいい。
 不感のお湯という風呂の種類があって、これは入る者の体温とほぼ同じ湯温に調整されてるんだが、これに浸かると熱くもなく、ゆるくもなく、不思議な感覚に包まれる。これがいつまでも入っていられてすごーく気持ちがよくて、どんどんオフビートな気持ちになっていくんだよな〜。そんな、不感の湯みたいな雰囲気がある映画だ。

 でもそんな中でも西村くんがとある食事を口にしてホームシックに陥るシーンはめちゃめちゃ布石の投じ方がうまくて関心する。このシーンも、本作らしくふんわりと描写されるんだけど大笑いしちゃったよ。いやー巧い映画ですわ。

 そんなわけでなんとなく見られて、なんとなくいい気分になれる映画です『南極料理人』。見てものすごーく得るものも無いけど、負担にもぜんぜんならない。ふだん極端なものばっかり見てるからたまにはこんなお茶みたいな映画もいいやね。オススメ。

カテゴリー